アメリカ起業・会社設立前の会社形態の選び方

アメリカで起業・会社設立する前に、まず決めなければいけないのが「会社形態」の選択です。

よく、「自分は個人事業主だから、LLCで。」という方が多いのですが、会社形態は、その事業規模と言うよりは、代表者の状況(アメリカ市民、永住権 or 外国人)やビジネス内容、税制面でのメリットなどを考慮して選択する必要があります。

そのために、それぞれの会社形態がどのようなものなのかを知る必要があります。

アメリカでの会社形態は、大きく分けて3つ、C-Corp、S-Corp、LLCがあります(厳密には、NPOなどもありますが、今回は一般的な形態をご紹介します)。

それぞれについて、簡単に概要をご紹介します。

C-Corporation

C-Corporationは、いわゆる一般的な株式会社の形態で、多くの場合、このC-Corporation(以下、C-Corp)で登記をします。

C-Corpは、日本人など外国人が代表者でも作ることができるため、これから日本から来てアメリカで起業するという場合は、このC-Corpでの会社設立となります。

アメリカでの法人登記は、日本からのご依頼でこちらで登記することも可能ですが、法人用の納税者番号「EIN: Employer Identification Number」を取得するためには、代表者の「SSN: Social Security Number」が必要になりますが、日本人は、有効な就労ビザや滞在ステータスがなければ、SSNは取得できませんので、その代わりになる「ITIN: Individual Taxpayer Identification Number」の取得が必要になります。

※ EIN(法人用納税者番号)、SSN(社会保障番号)、ITIN(SSNを持たない非居住者向け個人用納税者番号)

C-Corpで会社設立した後、毎年タックスリターンを行いますが、法人の場合、法人所得税は、基本的には会社の純利益(Net Income)に対して課税されるのですが、これまでに赤字がある場合は、C-Corpの場合、最大で20年間の赤字分(営業純損失)を繰り越しすることができ、課税所得の80%まで控除することができます。

ただし、節税と称して故意に赤字を増やしたり、長年、赤字が続いている場合は、税務監査の対象となる場合があるので注意が必要です。

またC-Corpの場合、給与(自分にはいわゆる役員報酬)を出すことができますので、その給与から、将来に備えてのSocial Security TaxやMedicare Taxが天引き(積み立て)をされるため、個人事業主とは異なり、将来への備えに対応できることも、C-Corpのメリットになります。

個人事業主の場合、経費などを差し引いたNet Incomeに対して、所得税(Income Tax)の他に、Self Employment Tax(自営業税)が課税されます。

このSelf-Employment taxは、通常給与から天引きされて納めるSocial Security Tax、Medicare Tax、そして、その同額の会社負担となるPayroll Taxに該当するもので、個人事業主は給与を出していない(自分には出せない)ので、これらを納税していないため、Sel-Employment Taxとして支払うことになります。

また、所得税を減らそうとすると、当然、Self-Employment Taxも減りますが、同時にSocial Security、Medicareへの積立額(将来受け取る金額)も少なくなるということになります。

さらに、このSelf-Employment Taxは、タックスリターンの際に一度に納めなければいけないので、資金繰りも調整しなければいけません。

この支払いが遅れると、ペナルティだけでなく、遅れた分の利子も付いてしまいますので、期日通りに支払うことが必要です。

こうした納税タイミングや将来的なことも考えると、個人事業主よりも法人化した方がメリットがある、ということになります。

そして、法人化することで個人事業主よりも信用度が高くなりますので、取引先への信用はもちろんのこと、銀行などの金融機関からの融資やローンなどを組みやすくなります。

また、先のコロナ禍のように、政府や地方自治体からの助成金なども好条件で受け取れることになります(受給条件を満たしている場合)。

デメリットとしては、会社で儲けが出た場合、会社は会社としてのIncome Taxを納め、儲けから株主配当などをオーナーである自分に出した場合、こちらは経費にはなりませんので、オーナー自身の個人のタックスリターンで、その分を合わせて納税をしなければいけません。

この点で、二重課税となってしまうデメリットとして挙げられます。

また、C-Corpで儲けが出ても株式に配当金を出さなかった場合、この儲けは、Retained Earnings(内部留保)として残り、会社の資産になります。

しかし、このRetained Earningsが$25万を超える場合には、Income Taxとは別に、Accumulated Earnings Tax(累計所得税)が課せられます。この点からも収支のバランスを見ながらの経営が必要になってきます。

ただし、すでに設備投資の計画や契約が具体的に進んでいる場合などは、それを証明することで、このAccumulated Earnings Taxを回避することもできます。

また、こうしたことは、タックスリターン直前の決算月で慌てても調整、対処できることが少ないので、普段から会計事務所などにお願いをして月次決算書(Income Statement:損益計算書、Balance Sheet:貸借対照表)を作成、確認することで、前もって対策を講じることができるので大切です。

毎月の月次決算書の作成、確認は、節税対策にとって重要なものになります。

S-Corporation

S-corporation(以下、S-Corp)は、まずC-Corpで登記した後に、特別な税控除を受け取るために、Form 2553をIRSに提出し承認を受けて、S-Corpとなります。

S-Corpとして承認されると、Path Through Taxation Entities(パススルー企業)となり、会社の純利益(Net Income)を、そのままオーナーやパートナーに分配をして、会社のIncome Taxを避けることができる制度が受けられます。

儲け(Net Income)がそのままDividend(分配金)として受け取り、会社のIncome Taxの納税がなくなりますので、C-Corpのように、会社と個人と二重で納税する必要がなくなるというメリットがあります。

ただし、Net IncomeをDividend(分配金)として出しますので、会社の内部留保には溜まりません。

内部留保がないということは、会社の純資産が増えないので、自己資本比率は下がることになります。自己資本比率が低くなると、「借金の多い会社」ということになりますので、銀行からの借り入れなどが厳しくなります。

自己資本比率=純資産/総資本(=負債+純資産)×100

無借金経営ができているビジネスモデル(飲食店など)であれば、内部留保がなくても自己資本比率は高く維持できるので、S-Corpでも良いことになります。

ただし、オーナーにとっては、会社の利益(Net Income)が会社に残らず、給与でない収入を得ることになりますので、そこから、Social SecurityやMedicareへの積み立てもなく、単純にオーナー個人の収入が増えることになりますので、当然、Income Taxの支払いが増えることになります。

普段からあまり給与を取らずに、年末のDividendだけの収入となると、Social SecurityやMedicareを積み立てていないため、老後に十分な額をもらえないことになりますので、ある程度、給与を取りながら、年度末にDividendを取るなどの調整をしていく必要があります。

これらのバランスを考えると、利益が出そうな場合は、分配金(Dividend)として出すよりも、将来に備えてSocial Securityなどを納めておきたいと言うことであれば、給与(役員報酬)を増やして、経費計上した方が会社にとっても良いことになります。

年齢的に、これまで十分にSocial SecurityとMedicareを納めてきたということであれば、Dividendで受け取る選択肢を選べば良いことになります。

ご自身のライフプランを見越して、どのような形の経営が良いかを判断する必要があります。

これについても、毎月の月次決算書の作成と確認がとても重要になってきますので、これに掛かる経費を削るのではなく、会計事務所などに依頼をして、しっかりと毎月確認していくことが重要です。

もう一点、S-Corpの場合、気を付けなければいけないことがあります。

それは、Path Through Taxation Entitiesになることで、毎年のタックスリターン時には、Net IncomeをDividendとして受け取ったという証明書類「K-1」が発行されます。この「K-1」を元にオーナーは個人のタックスリターンを行わなければなりません。

このSchedule K-1の発行と申告を怠ると、そのオーナーやパートナーごとに、$260/月の遅延金が課せられてしまいますので注意が必要です。

Path Through Taxationの恩恵(二重課税を避ける)を受けるために、K-1の申告は欠かせないものになります。

また、S-Corpは、外国人オーナーでは作ることができませんので、アメリカ市民、または永住権保有者である必要があります。

従って、日本からアメリカで起業する場合には、S-Corpを作ることができません(永住権などを取得した後に、S-Corpに変更することは可能)

Limited Liability Corporation(LLC)/Limited Liability Partnerships(LLP)

Limited Liability Corporation(LLC)/Limited Liability Partnerships(LLP)(以下、LLC/LLP)は、基本的には複数のパートナーで、会社の利益を折半するケースの場合に用いられる形態になります。

もちろん、1人だけのパートナーで作ることは可能ですが、タックスリターンの際に、カリフォルニアでは特別なフォームで申告をしなければなりません。

LLC/LLPは、C-Corp同様、外国人(日本人)でも作ることが可能です。

ただし、外国人が会社を作る際には、上述の通り、ITINが必要になりますので、事前に日本にいる間に、ITINの取得されることをお勧めします。

LLC/LLPは、S-Corpと同じく、Path Through Taxation Entityにすることが可能です(LLC/LLPの場合は選択制)。

純利益(Net Income)を複数のパートナーに、その出資比率に応じて分配し、会社としてのIncome Taxはかからないことになります。

Path Through Taxation Entityとしてのメリットがある一方、LLC/LLPのデメリットとしては、カリフォルニア州の場合は、儲けではなく、売上高に対してかかる「Gross Receipt Fee」を別途納税しなければなりません。

売上高が、

$250,000~$499,999:$900

$500,000~$999,999:$2,500

$1,000,000~$4,999,999:$6,000

$5,000,000 以上:$11,790

ある程度の売上が見込まれる場合は、C-Corp、S-Corpにした方が、こうした追加のFeeを支払わなくても済むことになります。

また、こうしたLLC/LLPに関する追加Feeは、各州ごとに売上高に対する金額や率が設定されています。

ちなみに、カリフォルニア州の場合、いずれに会社形態においても、Income Taxの納税がない場合、$800のミニマムタックスを納めなければなりません。

こちらは、いわゆる予定納税になりますので、翌年のタックスリターン時にIncome Taxが納税が発生する場合は相殺されます。なければ、経費として課税対象金額が減ることになります。

C-Corp、S-Corpに関しては、初年度は免除されていますが、LLC/LLPの場合は、初年度から$800を支払わなくてはなりませんので、この点でもLLC/LLPのデメリットと言えます。

以上が、アメリカにおける代表的な会社形態になります。

実際に、アメリカにおいて会社設立をする際、ご自身の状況(市民権・永住権保持か外国人か)や会社の規模、ビジネス形態、収支状況などによって、得られるメリット、デメリットがありますので、その点を考慮した上で、お決め頂ければと思います。

ご自身が、どの会社形態が適切なのか分からないということであれば、お気軽にご相談下さい。

会社設立・会社形態に関するお問い合わせはこちら

お待ちしております。